黒い、海

私が子供の頃、ある夜電話が鳴った。今は亡き父は船乗りだった。

今、港に船が停泊しているから来るか?と言う。

解った行く!

私は暗い夜道を自転車で、言われた場所まで走る。今の時代子供1人では考えられないが、、。

港は街灯が少ない。何だか怖い。父の船は大きなタンカー船だから港でも一番奥だ。暗闇が恐怖だった。自転車のライトが頼りだ。

アッ!あの船だ。父は船から降りて待っててくれた。お父さん〜、久しぶりに会う。父も嬉しそうだ。明日、早朝出航で船の見守りが有り、家に帰れ無かったと言った。乗船する為に幅30センチ程の板の上を渡らなければならない。えー、落ちたら真っ暗な海に転落だ。

死ぬ。

父は助けてくれると思うが、暗い海を見ていると吸い込まれそうになる。

アレは何だ?

沢山の何か黒い物体が動いている。ジーと、目を凝らす。カブトガニだ。カブトガニがウヨウヨ岸壁と船の間に沢山いる。何百匹いるのだろう。落ちたらカブトガニと、一緒に泳ぐのだけは避けたい。今は生息が激減しているが、

波が、船と板と私を揺らす。あっ渡れた。想像するより早目の行動か?

よかった死ぬ手前だ。

運転室に行く途中、漆黒の大きな穴が有った。広くて深い。何十メートル有るのだろ。此処に落ちたら死ぬ、、。もう、死ぬ事だらけだ。砂利を積む穴だった。上をみると大きなクレーンが、ゆ〜らゆ〜ら揺れている。舵の有る部屋に入る。アッ犬がいる。柴犬の様だが顔が黒い。航海しているこのワンちゃんは顔に油が薄っすら付いている。何だか凛々しくてかっこいい。船舶犬だ。

ヨシヨシ撫でてあげる。

海の仕事は命がけだ。「板子一枚下は地獄」の言葉を思い出した。